プロローグ – 困窮と恥ずかしさの中で
大学生活という現実
2020年春、私は18歳で地方から東京の大学に進学した。親からの仕送りは月5万円、家賃だけで4万円が消えていく生活。残りの1万円で食費と生活費全てを賄わなければならない状況だった。
高校時代まで実家暮らしだった私にとって、お金の管理は想像以上に困難だった。特に、生理用品にかかる費用は予想外の出費として家計を圧迫していた。ドラッグストアで普通のナプキンを買うと、一袋400-500円。月に2-3袋必要で、食費を削らなければならないこともあった。
初めてのアルバイト探し
経済的困窮から脱するため、アルバイトを探し始めた。しかし、コロナ禍の影響で求人は少なく、面接に行っても「シフトに入れる日数が少ない」「経験がない」という理由で不採用が続いた。
貯金は底をつき、親に追加の援助を頼むのも申し訳なく、一人で解決策を見つけなければならなかった。食事は主にもやしと納豆、時には1日1食で過ごすこともあった。
生理用品という切実な問題
特に困ったのは生理用品だった。これは絶対に必要なもので、節約のしようがない。コンビニで買えば更に高くつくし、まとめ買いをする余裕もない。
ある日、生理が始まったのに手持ちのナプキンが足りず、ティッシュで代用せざるを得なかった。みじめで情けなく、涙が止まらなかった。「大学生になってもこんな基本的なことで困るなんて」と自分を責めた。
第一章 – 100円ショップという発見
追い詰められての選択
生理用品を買うお金もない状況が続いていたある日、友人の田中さんが「100円ショップにも生理用品あるよ」と教えてくれた。最初は「100円の生理用品なんて大丈夫なの?」と不安だったが、背に腹は代えられなかった。
近所のダイソーに向かう足取りは重く、店内で生理用品コーナーを探すのも恥ずかしかった。他のお客さんの視線が気になり、何度も売り場を素通りしてしまった。
初めての100均生理用品
ようやく勇気を出して手に取った100均のナプキン。パッケージはシンプルで、枚数も有名ブランドより少なかったが、110円という価格は救いの神だった。
レジで会計する時も恥ずかしく、他の文房具と一緒に買って生理用品を隠すようにしていた。「店員さんにどう思われるだろう」「安物を買ってると思われないだろうか」と余計な心配ばかりしていた。
意外な品質への驚き
恐る恐る使ってみた100均のナプキン。正直、品質に対する期待は低かった。しかし、実際に使ってみると想像以上にしっかりしていた。
吸収力も悪くないし、かぶれることもない。もちろん高級品と比べれば差はあるかもしれないが、基本的な機能は十分に果たしてくれた。「110円でこの品質なら全然問題ない」というのが正直な感想だった。
経済的負担の劇的軽減
100均生理用品に切り替えたことで、月の生理用品代が1000円以上から300円程度に激減した。この700円の差は、当時の私にとっては非常に大きかった。浮いたお金で野菜を買えるし、たまには好きなお菓子を買うこともできた。
数字で見ると小さな金額かもしれないが、極限状態の家計にとっては生活を変える大きな変化だった。
第二章 – 恥の感情との向き合い
周囲の目という幻想
100均生理用品を使い始めてしばらくは、常に「バレたらどうしよう」という不安がつきまとった。友人との会話で生理の話になると、「私はブランド物を使ってる」と嘘をついたこともあった。
しかし、よく考えてみると、他人が私の使っている生理用品のブランドを知る機会なんてほとんどない。私が勝手に恥ずかしがっているだけで、実際には誰も気にしていないのではないかと思い始めた。
価値観の見直し
「高いものが良いもの」「安いものは恥ずかしい」という固定観念について考え直すようになった。本当に大切なのは、自分のニーズを満たしてくれるかどうかであって、価格や ブランドではないのではないか。
100均の生理用品は、私にとって必要な機能を果たしてくれている。それなら、値段が安いことを恥じる必要はないはずだ——そう考えるようになった。
友人への告白
ある日、親しい友人の佐藤さんに思い切って100均生理用品を使っていることを打ち明けた。恥ずかしくて顔が真っ赤になったが、彼女の反応は予想外だった。
「えっ、私も気になってた!どんな感じ?使い心地教えて!」と、むしろ興味深そうに聞いてくれた。恥ずかしがることではなく、単なる選択肢の一つとして捉えてくれたのだ。
情報交換の始まり
佐藤さんも経済的に余裕がない学生の一人で、生理用品代を節約できる方法を探していた。私の体験談を聞いて、彼女も100均生理用品を試してみることにした。
後日、「本当に普通に使えるね!もっと早く知りたかった」と喜んでくれた。私一人だけの秘密ではなく、同じような状況の友人と情報を共有できることで、恥ずかしさが薄れていった。
第三章 – 多様な商品への探求
様々な100円ショップでの比較
100均生理用品への抵抗がなくなると、今度は様々な店舗で商品を比較するようになった。ダイソー、セリア、キャンドゥ——それぞれに特色があることを発見した。
ダイソーは種類が豊富、セリアはデザインが可愛い、キャンドゥは夜用の厚手タイプが充実している、といった具合に、店舗ごとの特徴を把握していった。
用途別の使い分け
慣れてくると、シーンに応じた使い分けができるようになった。普段使いには基本的なタイプ、夜間や量の多い日には厚手タイプ、外出時には薄手で目立たないタイプ、といった具合に。
この頃には、100均生理用品を「節約のための妥協品」ではなく、「自分のニーズに合わせて選択できる実用品」として捉えるようになっていた。
関連商品の発見
生理用品売り場をよく見るようになって、関連商品の存在にも気づいた。生理用ショーツ、使い捨てカイロ、鎮痛剤まで、生理期間を快適に過ごすためのアイテムが100円で揃うことを知った。
特に使い捨てカイロは重宝した。生理痛がひどい時にお腹や腰に貼ると楽になるし、110円という価格なので気軽に使えた。トータルで考えると、生理関連の出費を大幅に抑えることができた。
品質向上への気づき
定期的に購入していると、商品の品質が少しずつ向上していることにも気づいた。パッケージデザインが洗練されたり、吸収力が改善されたり、100円ショップも顧客の声に応えて商品開発を行っているのだと実感した。
第四章 – アルバイト生活と新たな視点
コンビニバイトでの発見
大学1年の夏、ようやくコンビニでのアルバイトが決まった。時給は安かったが、安定した収入を得られるようになった。そこで働いて初めて、生理用品の価格構造について知ることができた。
同じ機能の商品でも、ブランドによって価格が2-3倍違う。店長さんに聞くと「ブランド代、広告費、パッケージ代なども価格に含まれている」と教えてもらった。
お客さんとの接触
レジでの接客を通じて、生理用品を購入するお客さんの様々な事情を垣間見ることができた。高校生が恥ずかしそうに買って行ったり、年配の女性がまとめ買いしていったり、男性が恥ずかしそうに購入したり。
みんなそれぞれの事情があり、私が100均商品を使っていることなんて、誰も気にしていないのだと改めて実感した。
同僚との会話
バイト先の同僚は同世代の女性が多く、自然と生理の話題になることもあった。私も少しずつ100均商品のことを話すようになったが、多くの子が「そんな選択肢があったなんて知らなかった」と驚いた。
特に印象的だったのは、先輩の山田さん(21歳)の反応だった。「私、生理用品代で毎月2000円近く使ってる。バイト代の1割以上よ。100均で代用できるなら試してみたい」と言ってくれた。
経済格差への理解
同じ大学生でも、家庭環境によって経済状況が大きく異なることを実感した。実家が裕福な子は生理用品の価格を気にしたことがないし、逆に奨学金とバイトで生活している子は私以上に節約に苦労していた。
100均生理用品の情報は、特に経済的に苦労している友人たちに喜ばれた。「生理になるたびにお金の心配をしなくて済む」という安心感は、想像以上に大きかった。
店舗での商品観察
バイト先のコンビニでも生理用品を扱っていたが、100均商品との価格差を毎日目にすることで、改めて「選択肢の多様性」について考えるようになった。
高級品を選ぶ人もいれば、私のように価格重視で選ぶ人もいる。どちらも正しい選択で、自分の価値観と経済状況に合わせて選べばいいのだと思えるようになった。
第五章 – 周囲への影響と情報共有
SNSでの情報発信
大学2年になった頃、Twitterで「#節約生活」のハッシュタグをつけて、100均生理用品の体験談を投稿してみた。最初は数人の反応だったが、リツイートされるうちに多くの人に見てもらえるようになった。
「こんな情報を待っていた」「生理貧困で困っていたので助かります」「偏見を持っていたけど、試してみます」といったコメントが寄せられ、同じような境遇の女性が多いことを知った。
大学での活動
大学の女子学生向けサークル「女子会」で、生理用品についてのミニ講座を開催することになった。タイトルは「知って得する!生理用品の選び方」。
参加者20名ほどの前で、100均商品を含めた様々な選択肢について話した。実物を持参して比較展示も行い「実際に見てみると、そんなに品質に差がないんですね」という感想をもらった。
友人グループでの共同購入
情報交換をしていた友人たちと、100均生理用品の共同購入を始めた。まとめて買うことで、一人あたりの負担をさらに軽減できるし、様々な種類を試すこともできた。
月に一度、みんなでダイソーに行って商品を選ぶ時間は、意外と楽しいイベントになった。「今月の新商品」「季節限定パッケージ」など、商品選びを楽しむ余裕も生まれていた。
後輩への助言
大学3年になると、経済的に苦労している後輩から相談を受けることも増えた。生理用品代の節約方法について聞かれると、必ず100均商品の選択肢を紹介した。
「先輩が使ってるなら安心」「体験談を聞けて良かった」と言ってもらえることが多く、情報を共有することの大切さを実感した。
第六章 – 社会問題への関心
生理貧困という現実
大学の授業で「生理貧困」について学ぶ機会があった。経済的理由で生理用品を購入できない女性が、世界中に存在するという現実を知った時、自分の経験が決して特殊なものではないことを理解した。
日本でも、生理用品が買えずに学校を休む学生がいる、ホームレス女性の深刻な問題になっている、といった事実を知り、社会的な課題として捉えるようになった。
ボランティア活動への参加
地域の女性支援NPOでボランティア活動を始めた。困窮している女性への生理用品配布活動で、100均商品も重要な選択肢として提供されていた。
「高級品でなくても、基本的な機能があれば十分」という考え方は、支援現場でも共有されていた。限られた予算でより多くの人を支援するために、100均商品は欠かせない存在だった。
政策への関心
生理用品の無償配布や軽減税率適用などの政策議論にも関心を持つようになった。学生自治会での議論や、地域の議員との懇談会にも参加し、当事者の声を届けようと努力した。
啓発活動の展開
大学祭で「生理について考える」というブースを出展し、様々な生理用品の展示と情報提供を行った。100均商品から高級品まで、選択肢の多様性を紹介し、「自分に合った商品を選ぶことの大切さ」を伝えた。
多くの学生が関心を示してくれ、特に男性学生からも「知らなかった情報ばかりで勉強になった」という感想をもらった。
第七章 – 価値観の変化と成長
恥から誇りへ
100均生理用品を使い始めた頃の恥ずかしさは、いつの間にか誇りに変わっていた。「私は自分のニーズと経済状況に合わせて賢く選択している」という自信を持てるようになった。
高価な商品を使うことが良いことではなく、自分なりに考えて選択することが大切だと思えるようになった。
消費者としての成熟
商品を選ぶ際に、価格だけでなく品質、自分のニーズ、使用シーンなどを総合的に判断できるようになった。これは生理用品に限らず、あらゆる商品選択に応用できるスキルだった。
広告に惑わされず、ブランドイメージに左右されず、自分なりの基準で判断する消費者として成長できたと思う。
経済観念の確立
限られた予算の中でやりくりする経験を通じて、お金の使い方について深く考えるようになった。何にお金をかけるべきで、何を節約すべきかの判断基準が身についた。
100均生理用品で節約した分を、本当に必要なものや自分の成長につながるものに使えるようになった。
他者への理解と支援
自分と同じような境遇にある人への理解と共感が深まった。経済的困窮は恥ずかしいことではなく、誰にでも起こりうることだと実感し、困っている人を支援したいという気持ちが強くなった。
第八章 – 就職活動と新たな挑戦
面接での体験談
就職活動の面接で「学生時代に力を入れたこと」を聞かれた際、100均生理用品をきっかけとした啓発活動について話した。最初は生理の話を面接でするのは適切ではないかと迷ったが、社会的意義のある活動として堂々と語ることにした。
面接官の反応は予想以上に良く、「身近な問題から社会課題に気づく視点が素晴らしい」「当事者意識を持って行動できる人材だ」と評価してもらえた。
女性の働きやすさへの関心
就職先を選ぶ際も、女性が働きやすい環境かどうかを重視した。生理休暇の取りやすさ、職場での生理用品の扱い、女性管理職の比率など、これまで意識していなかった観点で企業を見るようになった。
内定先での活動
内定が決まった企業で、女性社員向けの福利厚生改善プロジェクトに参加することになった。その中で、生理用品の職場配置や購入補助制度についても提案し、採用されることになった。
学生時代の体験が、社会人になってからも活かされることを実感した。
第九章 – 社会人としての新たな視点
経済的余裕と選択の自由
就職して安定した収入を得られるようになっても、100均生理用品を完全にやめることはなかった。経済的な必要性は薄れたが、「選択肢の一つ」として使い続けている。
時には高級品を試してみることもあるが、基本的には自分のニーズに合った商品を価格と品質のバランスで選んでいる。
後輩支援の継続
大学時代から続けている後輩支援は、社会人になっても続けている。経済的に余裕ができたので、困っている後輩に生理用品を差し入れることもある。その際も、様々な選択肢があることを伝え、押し付けにならないよう気をつけている。
職場での環境改善
会社の女性社員有志で「働きやすい職場作り」のプロジェクトを立ち上げた。生理用品の職場配置、フレックス制度の活用、生理に関する正しい知識の共有など、様々な取り組みを行っている。
商品開発への関与
100円ショップチェーンでのアルバイト経験もあり、商品開発担当者との意見交換会に参加する機会もあった。

