手作りとは無縁だった過去
圧倒的な不器用さ
小学校の図工の時間は、私にとって苦痛以外の何物でもなかった。絵を描けば「何を描いているかわからない」と言われ、工作をすれば接着剤でべとべとになり、最終的には先生に手伝ってもらって完成させるという有様だった。
中学校の美術の時間も同様で、クラスメイトが美しい作品を次々と完成させる中、私だけがいつも未完成の作品を前に途方に暮れていた。成績は常に「2」か「3」で、「芸術的センスが皆無」と自分で諦めていた。
手作りプレゼントへのコンプレックス
友人の誕生日や母の日などに、手作りのプレゼントを渡している人を見ると、心の底から羨ましいと思った。しかし、自分が何かを作ろうとすると必ず失敗し、結局は既製品を購入することの繰り返しだった。
「手作り」という言葉に対して、憧れと同時に強いコンプレックスを持っていた。
DIYブームへの憧憬
SNSで見るおしゃれなDIY作品や、手作りのインテリア小物などを見るたびに「素敵だな」と思いながらも、「自分には絶対無理」と最初から諦めていた。
手芸店やホームセンターの手作りコーナーを見ても、「私には関係のない世界」だと思っていた。
偶然の出会い – セリアの文房具コーナーで
2020年秋のノート購入時
コロナ禍で在宅勤務が始まり、家で使うノートを購入しにセリアに行った時のことだった。文房具コーナーでノートを選んでいると、隣の棚に「転写シール」というものが陳列されているのが目に入った。
パッケージの魅力的なデザイン
転写シールのパッケージには、美しいアルファベットや花柄、幾何学模様などがデザインされており、まるで高級な文房具のような印象だった。「これが本当に100均商品?」と驚いた。
パッケージの裏面を見ると、「こするだけで簡単に転写できます」という説明があった。不器用な私でも「こするだけ」なら何とかなるかもしれないと思った。
軽い気持ちでの購入
「失敗しても110円だから」という気持ちで、アルファベットデザインの転写シールを1つ購入した。使う予定は特になかったが、「いつか使うかもしれない」という程度の軽い気持ちだった。
帰宅後の詳細確認
家に帰ってパッケージを詳しく見ると、使い方が非常にシンプルだった。①貼りたい場所にシールを置く、②付属のスティックでこする、③台紙を剥がす、の3ステップだけ。
「これなら私でもできそう」と初めて手作り系のアイテムに希望を持った。
初回チャレンジ – 恐る恐るの第一歩
練習用のノートで実験
最初は失敗してもいいように、使わなくなった古いノートで練習してみることにした。「COFFEE」という文字を転写してみることにした。
予想以上の簡単さ
実際にやってみると、驚くほど簡単だった。シールを置いて、付属のスティックで優しくこするだけで、美しい文字がノートに転写された。
「こんなに簡単でいいの?」と拍子抜けするほどだった。
仕上がりの美しさに感動
完成した文字を見て、心から感動した。まるでプロが手書きしたような美しい仕上がりで、「自分がこんなものを作れるなんて」と信じられなかった。
家族に見せると「すごい!どうやって作ったの?」と驚かれ、初めて手作りで人に褒められる体験をした。
成功体験がもたらした自信
この小さな成功体験が、私の中で大きな変化を生んだ。「もしかして、私にも手作りができるかもしれない」という希望が芽生えた。
使用範囲の急速な拡大
手帳のカスタマイズ
次に挑戦したのは、普段使っている手帳のカスタマイズだった。月名や曜日を転写シールでデコレーションしてみた。
シンプルだった手帳が、一気におしゃれで個性的なものに変身した。毎日手帳を開くのが楽しみになった。
プレゼントラッピングでの活用
友人の誕生日プレゼントのラッピングに転写シールを使ってみた。シンプルな包装紙に「Happy Birthday」の文字を転写しただけで、まるで専門店で包装してもらったような仕上がりになった。
友人からは「どこで包装してもらったの?手作り?すごい!」と大絶賛された。
スマホケースのデコレーション
無地のスマホケースに小さな花柄の転写シールを貼って、オリジナルのデザインを作った。市販のケースにはない、自分だけのデザインに愛着が湧いた。
文房具のカスタマイズ
ペンケース、定規、クリアファイルなど、身の回りの文房具に転写シールを貼って、すべてお揃いのデザインにした。「私だけの文房具セット」という特別感を味わった。
1年目 – 創作意欲の覚醒
転写シールのコレクション化
効果を実感するにつれて、様々なデザインの転写シールを買い集めるようになった。アルファベット、数字、花柄、動物、幾何学模様など、気がつくと30種類以上保有していた。
それでも総額3,300円程度で、手芸店で同等の材料を買うことを考えれば格安だった。
デザイン感覚の向上
様々なシールを使ううちに、色の組み合わせやバランス、レイアウトについて自然と学ぶようになった。最初は単純に貼っているだけだったが、次第に全体の調和を考えるようになった。
オリジナル作品への挑戦
転写シールを組み合わせて、オリジナルの作品を作るようになった。複数の文字シールを組み合わせて文章を作ったり、小さな柄シールを組み合わせて大きなデザインを作ったりした。
写真映えする作品作り
完成した作品をスマホで撮影してSNSに投稿するようになった。「#転写シール」「#100均DIY」などのハッシュタグを付けて投稿すると、予想以上の反響があった。
手作りへの偏見の消失
この頃には「手作り=難しい」という先入観が完全に消えていた。「適切な道具と方法があれば、不器用な人でも手作りを楽しめる」ということを実感した。
2年目 – 技術の向上と応用範囲の拡大
重ね貼り技術の習得
異なる色や柄の転写シールを重ねて貼ることで、より複雑で美しいデザインを作れることを発見した。例えば、文字の上に小さな星柄を重ねることで、キラキラした効果を演出できた。
グラデーション効果の発見
同系色のシールを段階的に配置することで、グラデーション効果を作れることがわかった。この技術により、作品の表現力が格段に向上した。
立体的な表現への挑戦
平面的だった作品から、重ね貼りを利用して立体感のある表現に挑戦するようになった。花びらを一枚ずつ重ねて本物の花のような効果を作ったり、文字に影を付けて浮き出て見えるような効果を作ったりした。
季節感のある作品作り
春には桜の柄、夏には海の柄、秋には紅葉の柄、冬には雪の結晶の柄というように、季節に合わせた作品を作るようになった。部屋の装飾も季節ごとに変更するようになった。
友人からの制作依頼
作品をSNSで見た友人から「私の分も作って」という依頼が来るようになった。最初は無料で作っていたが、材料費だけでもと思い、少しずつお金をもらうようになった。
周囲への影響と技術の伝播
職場での注目
カスタマイズした手帳や文房具を職場で使っていると、同僚から「それどこで買ったの?」「自分で作ったの?」と声をかけられることが増えた。
同僚への指導
興味を示した同僚何人かに、転写シールの使い方を教えた。「こんなに簡単だったなんて」「私にもできた」と喜ばれることが多く、教える喜びを知った。
家族の巻き込み
母親にも転写シールを紹介したところ、手帳のデコレーションにハマってしまった。親子で一緒に作品作りをする時間が増え、新しいコミュニケーションのきっかけに

