プロローグ – ごちゃごちゃケーブル地獄からの脱出
新居での理想と現実のギャップ
2019年3月、念願のマイホームを購入した32歳の私は、妻と5歳の息子との新生活に胸を躍らせていた。注文住宅で建てた我が家は、設計段階では完璧に見えた。リビングには大型テレビを置き、ゲーム機やレコーダーを設置し、パソコンデスクも配置する予定だった。
しかし、実際に家電製品を設置し始めると、想像していなかった問題が浮上した。あちこちから伸びる電源ケーブル、LANケーブル、HDMIケーブル、USBケーブル——まるで黒いヘビが這い回るような光景が広がっていた。
完成した家が台無しに
せっかく理想的な間取りで建てた家が、無数のケーブルによって台無しになっていた。妻は「こんなに汚く見えるなんて思わなかった」とため息をつき、息子も「黒いひもがいっぱいで怖い」と言っていた。
建築時にもう少しコンセントの位置を考慮すべきだったと後悔したが、今更変更はできない。何とかこのケーブル地獄を解決する方法を見つけなければならなかった。
インターネットで解決策を模索
ネットで「ケーブル 整理」「配線 隠し」などのキーワードで検索すると、様々な商品が見つかった。しかし、本格的な配線カバーや配線ダクトは意外と高価で、家全体をきれいにしようと思うと数万円の出費になりそうだった。
「引っ越しでお金を使いすぎた今、そんな予算はない」と困り果てていた時、100円ショップの配線カバーの存在を知った。
100円ショップへの偵察
半信半疑で近所のダイソーに足を運んだ。電気用品コーナーを探すと、確かに「配線カバー」「ケーブルカバー」「配線モール」といった商品が110円で売られていた。
手に取ってみると、思っていたより作りがしっかりしている。長さは1メートル、幅は1.5センチ程度で、両面テープで壁に貼り付けるタイプだった。「これで本当に見栄えが良くなるのだろうか」という疑問はあったが、まずは試してみることにした。
第一章 – 初めての配線カバー体験
最初の一歩は慎重に
最初に取り組んだのは、テレビ周りのケーブル整理だった。テレビ台から壁のコンセントまで這っている電源ケーブルを隠すことから始めることにした。
100均で購入した白色の配線カバーを壁に這わせるラインに合わせてカットし、両面テープで貼り付けていく。最初は「本当に大丈夫かな」「すぐに剥がれないかな」と不安だったが、意外としっかりと接着された。
予想以上の効果
たった1本のケーブルを隠しただけなのに、見た目の変化は驚くほど大きかった。黒いケーブルが白い壁に這っている状態から、すっきりとした白い壁に変わっただけで、部屋全体の印象が変わった。
妻も「あら、随分きれいになったじゃない」と驚いてくれた。息子も「黒いヘビがいなくなった!」と喜んでくれた。この小さな成功体験が、本格的な配線カバー導入への原動力となった。
作業の楽しさを発見
配線カバーを取り付ける作業は、思っていた以上に楽しかった。パズルのピースを組み合わせるような感覚で、どのルートを通せば最も美しく、効率的にケーブルを隠せるかを考える過程が面白い。
DIYの経験がほとんどなかった私にとって、この「自分の手で家をより良くする」体験は新鮮で、達成感があった。
近所への買い出しが習慣に
テレビ周りが成功すると、今度はパソコンデスク、オーディオ機器、ゲーム機と、次々に配線カバーを設置したくなった。週末になると近所のダイソーに通い、必要な長さ分の配線カバーを購入するのが習慣になった。
店員さんも顔を覚えてくれて、「また配線カバーですね。DIY頑張ってますね」と声をかけてくれるようになった。
第二章 – 技術の向上と工夫の発見
コーナー処理の課題
配線カバーを使い始めて最初に直面した課題は、壁の角(コーナー)をどう処理するかだった。まっすぐな部分は簡単だが、90度に曲がる部分では配線カバーをカットして角度を調整する必要があった。
最初は見た目が悪い継ぎ接ぎ状態になってしまい、「これでは逆に汚く見える」と落ち込んだこともあった。しかし、試行錯誤を重ねるうちに、きれいに仕上げるコツを覚えていった。
カッターの技術向上
配線カバーを正確な角度でカットするために、カッターの使い方も上達した。定規を使って正確に測り、一度で切断できるように力の入れ方を覚えた。
最初は何度も切り直しが必要だったが、慣れてくると一発で美しくカットできるようになった。この小さな技術向上も、作業の楽しさを増してくれた。
色選びの重要性発見
当初は白色の配線カバーしか使っていなかったが、設置場所によっては他の色の方が目立たないことに気づいた。木目調の家具の近くでは茶色、黒い機器の周辺ではグレーというように、場所に応じて色を使い分けるようになった。
100円ショップには白、黒、グレー、茶色と複数の色が揃っているため、用途に応じて選択できることも大きなメリットだった。
長さの計算スキル
効率的に配線カバーを購入するため、事前に必要な長さを正確に測る習慣がついた。メジャーで距離を測り、コーナー部分での余裕を計算し、必要本数を算出する——まるで建築現場の職人のような作業だった。
この計画性が身についたことで、無駄な購入も減り、作業効率も向上した。
第三章 – 家族全体への波及効果
息子の関心と手伝い
最初は「黒いヘビが怖い」と言っていた息子が、配線カバーの作業に興味を示すようになった。「お父さんが家をきれいにしてる」ということを理解し、メジャーを持ってくれたり、カットした配線カバーを運んでくれたりと、小さな手伝いをしてくれるようになった。
息子にとって、父親が家のために何かを作る姿を見ることは良い教育になっているようだった。「お父さんみたいに家を作る人になりたい」と言ってくれた時は、胸が熱くなった。
妻のDIY意識の向上
妻も最初は「また100円ショップで変なもの買って」という反応だったが、実際に部屋がきれいになる様子を見て考えが変わった。「私も何か手伝えることはある?」と積極的に参加してくれるようになった。
特に、配線カバーの色選びや設置場所の提案では、女性ならではのセンスを発揮してくれた。「ここは目立つから、もう少し下に設置した方がいい」といったアドバイスは非常に的確だった。
家族の共同プロジェクト化
いつの間にか、配線整理は家族全員の共同プロジェクトになっていた。週末に「今度はどこをきれいにしよう?」と相談しながら、みんなでダイソーに買い物に行くのが楽しいルーティンになった。
家族で一つの目標に向かって協力する体験は、親子関係や夫婦関係にも良い影響を与えていたと思う。
来客時の評価向上
配線整理が完了した頃、久しぶりに友人たちを家に招いた。「新築だからきれいなのは当然だと思っていたけれど、これは配線もすごくきれいに処理されてるね」と褒められた。
「実は100均の配線カバーを使ってるんです」と説明すると、「えっ、100均で?信じられない」と驚かれた。この反応が、自分の取り組みに対する自信を深めてくれた。
第四章 – 技術の応用と拡張
他の部屋への展開
リビングでの成功を受けて、他の部屋にも配線カバーを導入することにした。寝室のベッドサイドテーブル周り、子ども部屋のゲーム機周り、キッチンの電子レンジやコーヒーメーカーの配線など、家中のケーブルを整理していった。
各部屋で異なる課題があった。寝室では夜間照明への配慮、子ども部屋では安全性の確保、キッチンでは水や油汚れへの対策など、それぞれの環境に合わせた工夫が必要だった。
キッチンでの特別な工夫
キッチンでは水や油が飛び散る可能性があるため、配線カバーの清掃やメンテナンスが重要だった。100均の配線カバーは表面が滑らかなため、濡れた布で簡単に拭き取ることができることがわかった。
また、コンロ周りでは熱の影響も考慮する必要があった。配線カバーの耐熱性を確認し、適切な距離を保って設置することで、安全性を確保した。
階段での高度な技術
最も challenging だったのは、2階への階段部分の配線処理だった。インターネットケーブルを1階から2階に引き回すために、階段の壁面に沿って配線カバーを設置する必要があった。
斜めの角度での設置、段差への対応、長距離での美しい仕上げなど、これまでに身につけた技術の集大成が求められる作業だった。完成した時の達成感は格別だった。
屋外への応用
庭のイルミネーションやエアコンの室外機への配線でも、屋外用の配線カバーを活用した。雨風に晒される環境でも、100均の配線カバーがどの程度持ちこたえるかを実験的に試してみた。
結果的に、直射日光や雨に長期間晒されると劣化が進むことがわかったが、定期的なメンテナンスを行えば十分実用的であることを確認できた。
第五章 – 近所との交流と知識の共有
近隣住民からの相談
家の外観がすっきりしたことで、近所の方々から「配線がきれいに処理されていますね」と声をかけられることが増えた。そして「うちでも同じようにしたいのですが、どうしたら良いでしょうか?」という相談を受けるようになった。
最初は戸惑ったが、自分の経験を共有することで地域コミュニティに貢献できることに喜びを感じた。100均の配線カバーという身近な話題で、近所の人たちとのコミュニケーションが深まった。
DIY交流会の発足
近隣の5世帯で、月1回の「DIY交流会」を開催することになった。各家庭のDIYプロジェクトを共有し、技術や情報を交換する場として機能した。
私は「100均DIYの専門家」として、配線カバー以外の100均アイテムを使った改善アイデアも提案するようになった。この交流会は、その後3年間続く貴重な地域交流の場となった。
YouTubeでの情報発信
妻の提案で、配線カバーの取り付け方法をYouTubeで公開してみることにした。「素人でもできる100均配線カバー活用術」というタイトルで、実際の作業風景を動画にまとめた。
最初は身内向けのつもりだったが、同じような悩みを持つ人たちから多くの再生とコメントをいただいた。「参考になりました」「うちでもやってみます」という反応は、大きな励みになった。
地域のホームセンターでの講習会
YouTubeでの発信が評価され、地域のホームセンターから「DIY講習会の講師をしてみませんか?」という依頼を受けた。最初は自信がなかったが、家族の後押しもあり引き受けることにした。
「初心者向け配線整理講座」として月1回の講習会を開催し、毎回10-15名の参加者に実技指導を行った。参加者の「できました!」という笑顔を見ることが、新たな生きがいとなった。
第六章 – 息子の成長と価値観の継承
息子の技術習得
息子が小学校3年生になった頃、配線カバーの取り付け作業を一人でできるようになっていた。最初は見ているだけだったが、徐々に簡単な作業を任せるようになり、ついには基本的な直線部分なら完全に一人で施工できるレベルに達した。
「お父さんより上手にできた!」と誇らしげに報告してくれる息子の姿に、技術継承の喜びを感じた。同時に、子どもの吸収力の高さにも驚かされた。
学校での発表
息子の小学校で「家族の仕事紹介」という授業があった際、息子は私のDIY活動について発表することを選んだ。「お父さんは100円で家をきれいにする専門家です」という紹介に、クラス全員が笑顔になったそうだ。
担任の先生からも「家庭での実体験に基づいた素晴らしい発表でした」と評価していただき、息子にとって自信につながる経験となった。
価値観の形成
息子は配線カバーの取り付け体験を通じて、「お金をかけなくても工夫次第で問題は解決できる」という価値観を身につけていった。学校の自由研究でも「100均アイテムで作る便利グッズ」をテーマに選び、独創的な作品を作り上げていた。
友達との協力プロジェクト
息子の友達が我が家に遊びに来た時、配線カバーの作業を見て興味を示した。その後、友達の家でも同様の作業を手伝うことになり、子どもたち同士の技術交流が始まった。
「みんなの家をきれいにする少年団」と息子たちが名乗って活動している姿は、見ていて微笑ましく、同時に誇らしい気持ちになった。
第七章 – 10年後の振り返りと新たな発見
配線カバーの耐久性検証
配線カバーを導入してから10年が経過した。最初に設置したものの多くは今でも問題なく機能している。一部、直射日光が当たる場所や頻繁に人が触れる場所では交換が必要になったが、全体的な耐久性は予想以上だった。
110円という価格を考えれば、10年間で数回交換することになっても十分にコスト効果は高い。むしろ、簡単に交換できることで、家のメンテナンスに対する心理的ハードルが下がったことの方が大きなメリットだった。
家の価値向上への貢献
10年後に家の査定を受ける機会があったが、「配線処理が非常に丁寧で、メンテナンスも行き届いている」という評価を受けた。100均の配線カバーが、結果的に家の資産価値向上にも貢献していたことがわかった。
査定士の方からは「こうした細かい部分への配慮が、住宅全体の品質を印象づけます」というコメントをいただき、小さな改善の積み重ねの重要性を再認識した。
技術の進歩への対応
10年間で家電製品や配線環境も大きく変化した。ワイヤレス化が進み、ケーブルの本数は減ったが、それでも完全になくなることはなかった。新しい機器の導入に合わせて、配線カバーでの整理も継続している。
技術が進歩しても、「美しく整理された環境で生活したい」という基本的なニーズは変わらないことを実感している。
息子の独立と技術の継承
息子が大学進学で一人暮らしを始める際、100均DIYの技術が役立った。限られた予算の中で快適な住環境を作るために、配線カバーをはじめとする100均アイテムを活用している。
「お父さんに教えてもらった技術が、一人暮らしでとても役に立ってる」という報告を受けた時、技術継承の意味を深く理解できた。
第八章 – 人生観の変化と学んだこと
小さな改善の大きな力
100均の配線カバーという小さなアイテムから始まった体験は、私の人生観を大きく変えた。「大きな問題も、小さな改善の積み重ねで解決できる」ということを身をもって学んだ。
この考え方は、仕事や人間関係、健康管理など、生活の様々な場面で応用できることがわかった。完璧を目指すのではなく、今日できる小さな改善から始める——これが私の基本的な行動原理となった。
コストパフォーマンスの真の意味
最初は「安いから」という理由で選んだ100均の配線カバーだったが、真のコストパフォーマンスは価格の安さだけではないことを学んだ。
- 失敗を恐れずに挑戦できる心理的安全性
- 気軽に試行錯誤できる実験環境
- 家族全員で参加できる手頃さ
- 継続的な改善が可能な持続性
これらの要素が組み合わさることで、お金では買えない価値を生み出していたのだと理解できた。

